親友とも恋人とも違う友人の話

私には仲の良い男友達がいる。歳が近い兄と、兄の友達と遊んでもらっていたことが多かったからか、昔から女友達より男友達の方が多かった。中学も、高校も、他者比較してヒエラルキーを築きたがる女子社会より、馬鹿でみっともないけれど、いつも周囲と笑って過ごせる男子世界の方が好きだった。ちなみにBLは好きではない。

大学に入ってからも、自分の思っていることをつらつらと話せる存在は男の子だった。表参道のテラス席でパンケーキランチを食べるよりも、安い居酒屋でそこそこ美味しい焼鳥を食べる方が楽しい。生まれてくる性別を間違ったんだなと思う。

 

今いちばん仲良いであろう男の子と出会ったのは、大学4年生の春だ。同じ学部、同じゼミだったので、1年ほど前から存在は知っていたのに、ほとんど話をしたことがない人だった。高身長でサッカーマン、顔は竹内涼真に似ている。それくらいの情報しか知らない、全くの赤の他人。そんな彼と距離が縮まったのが、就職活動が始まってすぐの頃だ。「失恋したので話を聞いてください。」と突然LINEが来た。それが初めてのLINEだった。恋愛マスターでも占い師でもない私に何を期待してLINEをしてきたのか全く意図が読めなかったので、「送り先間違えてますよ。」とだけ返信すると、「間違えてないです。話を聞いて欲しいんです。」と返ってきた。一度も目を見て話したことが無い人の失恋話を聞くなんて、キツい。瞬間的にそう思い、「なんで私なんですか。」と聞くと「赤の他人に聞いてもらう方が、余計な慰めとか感情移入が無くて良い。無駄な『大丈夫だよ』と無責任な『どんまい』を連発する友達より、ただ黙って話を聞いてくれる人を欲しているだけなんだ。君は他人に全く興味が無さそうだから、聞いてもらうならこの人だと思って。」と言われた。初対面の人に対してなんて失礼なことを言う奴だと思ったけれど、その通りだから反論できない。そして、話したこともないのに自分のそういった性格を見抜いていた彼に、私も興味を持った。その日、私達は大学付近の安い居酒屋で飲む約束をした。帰り道には、次に会う予定まで決めて別れていた。

どんなところで波長が合ったのか、今でもよくわからない。友達の少ない私と違って彼の周りにはいつも大勢の人がいたし、私が1人旅をしている間、彼は男女混合の大人数で旅行に行っていた。でも、旅から帰ってきた翌日に会うのは、彼だった。脈絡のない話をして、美味しいご飯を食べて、別れる。それだけだけど、他の友人と大学3年間で築いた食事の回数を、彼はすぐに追い越した。ほぼ毎日電話をするようになり、休日にはドライブに行くようになった。気づけば、彼と一緒にいることが、私の日常になっていた。

 

私が社会人1年目になるとき、彼はまだ学生でいることを選択した。わざと単位を落として、大人にならない道を選んだ。良い生き方だな、と心から羨ましく思った。

生活環境が変わっても、私達の関係はさほど変わらなかった。さすがに会う頻度は減ってしまったけれど、相変わらず電話はしたし、土日も遊びに出かけた。私の方が少しばかり多くお金を稼いでいるけれど、学生時代と変わらず割り勘にするか、ちょっと多く彼が払うという関係も存続した。私達は変わらず良き友人だった。

秋になり、彼に彼女ができた。私も知っている、同じ大学の子だった。彼が彼女のことを好きなことは聞いていたので、私は心の底からおめでとうと伝えた。同時に、もう会えなくなるね、と言って、その日電話を切った。それから約半年間、一度も電話はしていない。

 

彼と会わなくなってから、私は暇になった。退屈が嫌いなので、学生時代は隙あらば旅行に行っていたけれど、社会人となった今はそんなことはできない。数少ない友人に1年ぶりに連絡をとり、ご飯を食べたり遊びに行ったり、彼と出会う前の日常に少しずつ戻していくことにした。けれど、些細な会話で気を遣ったり、インスタ映えする写真を撮らなくてはいけなかったり、かつで嫌いで仕方なかった不自由に再び足を踏み入れなければならないと思うと、その姿勢も徐々に失われていった。誰かといるくらいなら1人で良いかと思うようになり、ただひたすら退屈を消費する日々になった。

 

そんな中。先日、東京で大雪が降った日(今日も降ってるけど)。私は会社で初めて嫌いな上司に逆らった。自分だけだと思うが、私は悲しいときではなく、怒りを抱いたときに涙が出る。心の中に溜まっていた言語化できない感情が溢れでるんだろうな、なんて思っているが、その日上司に反抗しているときも、両目から涙が溢れた。そんな私を見て上司はビックリすると同時に、まずいと思ったらしい。その日は早く帰りなさいと言われたし、翌日からものすごく気を遣って話しかけてくるようになった。パワハラだのセクハラだの揚げ足をとられるこのご時世で、新入社員が泣きながら怒っている現場なんて部長に見られたらそりゃ面倒だろうな…。さすがに申し訳ないと思ったが、私も私で、周りから腫れ物のように扱われてしまうのが一番応えた。

退屈な日常へのストレスと、仕事で抱えるストレス。少し疲れてしまって、その土日は家でぼーっとして過ごすことにした。しかし、本を読んで、テレビを見て、料理をしていても、何も満たされない。「誰かと話したいな。」と無性に思った。そして浮かんだのが、彼の顔だった。

約半年ぶりに電話をかけた。番号なんて、確認しなくてもわかる。気だるそうに「ん?」っと電話に出る、彼の第一声を待った。

電話は繋がらなかった。1時間後、彼から「バイト中。どした?」とLINEが来た。すーっと心の中の霧が晴れるて行くのが分かった。「大丈夫。なんとなく話がしたかっただけ。」と言うと「じゃあ次話したくなったときは10コール鳴らして。そしたら出るようにする。」と言われた。5コールは短かったか。緊急事態時は10コール。半年ぶりの新しい決まりごとに、私の退屈が少し和らいだ。

 

私と彼の関係はなんて言えば良いのだろう。親友という表現がいちばん近いのかもしれないけれど、彼にはちゃんとした親友がいるし、私にも(1人だけど)親友と呼べる同性の友達がいて、彼女との関係性は、彼とはまた別のように感じてしまう。電話もするし、ドライブにも行くし、お互いの家も知っている。けれど恋人ではない。お互いに一度も恋愛感情を抱いたことはないし、2人で出かけるときはデートと呼べるようなことは何もしていない。「仲の良い友人の中の最上級」が親友の定義ならきっとそれが適切なのだろうけど、性別が異なるからか、親友という言葉があまりしっくりこない。やっぱり、生まれてくる性別を間違ってしまったんだんだな、と思う。

結局そのLINEからまた連絡は途絶えたけれど、私の退屈は少しマシになった。どうしようもなく話したくなったときは、とりあえず10コール鳴らしてみるか。出るか出ないかはさておき、話したい誰かがいるって、それだけで幸せだなと思わせてくれた、彼に感謝する。